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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)201号の1 判決 1973年3月22日

原告 安藤鎗一郎

被告 中野税務署長

訴訟代理人 森脇勝 外三名

主文

被告が昭和四一年五月一六日付で原告の昭和三八年分所得税についてした更正処分は総所得金額四四万五、九九三円、税額一万二、〇〇〇円をこえる限度において取り消す。

原告のその余の請求については訴えを却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告が昭和四一年五月一六日付で原告の昭和三八年分所得税についてした更正処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二原告の事実上および法律上の主張

一  原告は、肩書地で洋服仕立業を営むものであるが、昭和三八年分所得税について、総所得金額四四万五、九九三円、税額一万二、〇〇〇円と確定申告したところ、被告は、昭和四一年五月一六日付で、右総所得金額を五一万八、三二五円、税額を二万〇、四〇〇円と更正した。

二  しかしながら、右更正処分は、以下に述べる理由によつて違法であるので、取り消されるべきである。

(一)  更正処分は、国税通則法二四条の規定するように、納税申告書に記載された課税標準または税額等が税務署長の調査したところと異なる場合にその調査したところに基づいて行なわれるものであるが、右の調査は、納税者の権利・利益を保護する手続としての意味を有するものであるから、更正処分の前提要件をなすものであつて、その調査に瑕疵があれば、更正処分自体も、違法になるものと解すべきであり、かく解することによつてはじめて、納税者に対して憲法三一条の適正手続保障の趣旨に従つた実質的な救済が与えられることとなるのである。

そして、申告納税制度のもとにおいては、納付すべき税額は納税者の申告によつて確定するのが原則であり、しかも、調査によつて納税者に事実上重大な不利益を与えることは明らかであるから、調査権の行使が許されるのは、申告書の提出があつた場合に関していえば、当該申告書の記載の適正でないことにつき合理的疑いの存するときに限られるものというべきである。また、深度の問題にしても、税務調査が国税犯則取締法に基づく強制調査とはその本質を異にする任意調査である以上、納税者の営業活動を停滞させたり、得意先や銀行等に対する信用を失墜せしめるような態様においてなされることは許されず特にいわゆる反面調査は、それが法律にその根拠を有する(所得税法二三四条・昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(以下、旧所得税法と略称する。)六三条参照)とはいえ、納税者の信用を毀損するばかりでなく、調査の対象とされた第三者の営業活動にも重大な支障を与えるから、納税者に対する直接調査だけではその目的を達することのできない事項にのみ限られるものというべきである。

いま、本件についてこれをみるのに、被告は、原告の提出した昭和三八年分所得税確定申告書の記載の適正であることについて何ら疑う余地がないにもかかわらず―このことは、後に、原告の全面的協力の下に、約五日間にわたつて徹底的な臨店調査が行なわれたにもかかわらず、何らの不正事実も発見されなかつたことに徴しても明らかである。―しかも、原告の同意があつたわけではないのに、原告に対する直接調査をしないうちに、かつ、原告に通知しないで、抜打的に、切地の仕入先等はもとより、三菱銀行中野支店、東都信用金庫日本橋支店、東京信用金庫高田馬場支店をはじめ全く取引関係のない太陽銀行中野支店まで、いわば地域的に網をかぶせるような大がかりな形で、また、金融機関については、元帳まで洗いざらい開示を求めるといつた徹底したやり方で、反面調査を実施し、もつて原告の信用を著しく毀損し、これがため原告は、長年取引関係を継続してきた金融機関からも少額の融資すら停止され、営業上の損失はもとより、基本的人権を著しく侵害されるに至つた。かかる反面調査は、その自体としても、任意調査の限界を逸脱する違法のものであること、多言を要しないところであるが、その真の目的が税務調査にあるのではなく、税務調査に名をかりて原告らの組織する中野民主商工会(以下、中野民商と略称する。)を破壊するにあること、被告が昭和三八年秋に全国より係官の応援を得て、中野民商の会員に対し徹底的な差別調査を大々的に実施し、三年に遡つて大量の更正処分に及び、その間に文書配布やさまざまな中傷、威迫等による脱会強要を行なつた事実に照らし極めて明らかである以上、憲法の保障する結社の自由を侵害する違憲無効の誹を免れないものとなわなければならない。そればかりでなく、被告は、本件更正処分に対する原告の異議申立後に、中野区本郷の石橋米店について、反面調査と称して、原告の米の買入れ数量を、また、本訴提起後に、協立信用金庫について預金取引の有無を調査し、これがため、原告は残された唯一の融資の途も絶たれ、営業上重大な損害を被るに至つたが、かかる調査は、更正処分を争う納税者に対する報復、威嚇以外の何ものでもなく、まさに、原告の基本的人権を侵害するものというべきである。

(二)  本件更正処分は、右のような大がかりな調査によつても、原告提出の確定申告書の記載を不当とする結果が得られなかつたにもかかわらず、根拠のない売上高を推計してなされたものであるが、

(1) 原告は前叙のごとく調査に積極的に協力し、また、その提出した資料にも脱漏もしくは虚偽記載がなかつたのであるから、被告が推計によつて所得を認定したこと自体、すでに、違法たるを免れない。

(2) そればかりでなく、被告は、本訴に至り、前記売上の推計を撤回して、別表第一「加算または減算の理由とその金額」欄記載のごとく、売上金額に自家消費分を加算し、また、これにより控除すべき必要経費を大幅に減額し、全体の辻褄を合わせているが、いずれも以下に述べるように合理的根拠を有しないものである。

すなわち、

(イ) 被告は、売上金額(三四七万八、七五〇円が正当であり、確定申告書記載の三三四万四七五〇円は、移記に際しての誤記である。)に自家消費分八万八八五〇円を加算しているが、原告父子は、年間五着もの背広を自家消費分として作つた事実もなければ、また、それほど消費するわけもない。

(ロ) 原告が確定申告書に記載した必要経費二九五万九、〇〇〇円は、別表第二記載の費用の合計額から所得計算上否認すべき経費として八万三、一六〇円(光熱費三万〇、〇〇〇円、固定資産税八、〇四〇円、医療費・区民税四万五、一二〇円)を控除した一般経費合計一五七万六、三四一円に仕入原価一三八万二、六六六円を加えたものであるが、同表記載の金額は、その注に記載したごとく、むしろ実際よりも低く押えられており、車庫賃借料、建物減価償却費、自動車保険料等多くの計上もれもあるのであつて、必要経費に関する被告の主張もまた、合理的根拠のないものというほかはない。

第三被告の事実上および法律上の主張

一  原告主張の一の事実は認める。

二  本件更正処分のうち審査裁決によつて維持された部分が違法であるとする原告の主張は争う。

(一)  被告のした反面調査は、旧所得税法六三条の規定する質問検査権に基づき適法に行なわれたものであつて、いささかも違法のかどはない。

およそ、税務調査は、複雑多岐にわたる経済事象から納税者の当該年度における課税標準を的確に把握するために認められた法定の権限であり、いわゆる反面調査も、税務調査の一環として行なわれるものであつて、たとえ納税者の記帳等がある場合においても、課税標準の的確な把握ということから、その内容の適否を客観的に確認することが必要であるが、そのための有効かつ不可欠な手段であるから、これを行なうにあたり納税者本人への事前通知や本人の承諾を必要とするとか、納税者に対する直接調査をした後で、その目的を達することができなかつた場合に限り補充的にのみ実施すべきであるとかの制約は、存しないのである。

また、調査の対象や形態にしても、納税者の事業の規模や内容、記帳の状況、証拠書類保存の実状あるいは調査に対する協力度合等が千差万別であるばかりでなく、調査の人員、日数等課税庁に与えられた条件も異なるので、これらの事情に対応して、具体的な事件ごとに税務職員の合理的な判断によつて決定せざるをえないのであつて、そこには一定の基準が存するわけではない。

ところで、被告が原告を調査の対象に選定し、原告に対して調査権を行使するに至つたのは、当時の経済成長、物価上昇等に伴い一般に所得の増加が期待されていたにもかかわらず、原告の申告にかかる昭和三八年分の総所得金額が昭和三七年分の五四・八パーセントと著しく減少していて、原告のいわゆる申告書の記載の適正でないことについての合理的疑いがあり、調査の必要があると判断したからである。また、本件の反面調査が本人に対する直接調査に先立つて行なわれたことは、事実であるが、これは、原告の昭和三七年分所得税の調査記録に、原告の仕入先、金融機関等の記載があつたことや事務上の都合等によつたまでであり、もともと、銀行調査は必要の都度随時行なわれるべきものであつて、現に被告は、この調査により原告の売上、仕入等の金額を把握し、一方必要経費に算入されるべき借入金利息をも確認する必要があつたのである。また、調査の方法にしても、金融機関の同意を得たうえで任意に提示された書類のみを検討したにとどまるものであつて、たとえ、原告がその後これら金融機関から融資の停止を受けた事実があつたとしても、その原因が被告のした右の銀行調査にあるとする原告の主張は、根拠のない憶測にすぎない。

原告は、本件の税務調査をもつて中野民商の組織破壊を図つた違法行為であると主張する。しかし、被告は、昭和三八年九月から開始された調査にあたり、所部職員に対し、中野民商の会員に対する調査については、調査妨害等に屈することなく、毅然たる態度をもつて臨み、調査を中途半端に終らせることがあつてはならない旨を指示したことはあるが、これは、従前、中野民商の反税的活動の結果、その会員に対する調査が不徹底に終り、一般納税者に比べて著しく低額の申告が充分な調査もできないまま放置されるという憂慮すべき事態となつていたためであつて、職員がその年に限り同会員に対しては一般の所得調査に比して多くの日数を投じて取引先等の調査をしたもの、そのような調査態勢をとらなければ、質的に一般納税者に対すると同程度の深度の調査ができなかつたからにほかならず、課税の公平を期するための当然の措置であつたことはいうまでもない。しかも、昭和三八年分以降の所得について昭和四一年一月以降に行なわれた本件の調査は、右に挙げた昭和三八年九月から開始された調査とは関係のないものであり、この点からいつても、原告の右主張は、失当たるを免れない。また、原告の指摘する米屋の調査は、原告の従業員の状況を確認するためであり、訴え提起後における金融機関についての調査も、訴訟追行上必要な証拠を収集するためになれさたものであつて、もとより報復的意図によるものではない。

(二)  本件課税処分にあたつては、原告から呈示される寸法帳、証憑書類、計算書(原告作成の計算書、出金伝票に代るメモを含む。)等の資料に基づいて、一部については調査により別表第一「加算または減算の理由とその金額」欄記載のごとく右資料の不備を補つたうえ、収支計算によつて原告の右年度分の所得金額を算出したもので、そのうち売上金額については、右寸法帳に、顧客名と注文を受けた品名、寸法、先地ものの場合はその旨および販売価額(仕立価額)が記録してあり、これを集計すれば、背広、上衣、ズボン、オーバー類等商品の種別ごとに原告の売上着数、売上金額を算出することができたが、ただ、被告の調査の結果によれば、原告方では毎年原告とその長男吉明によつて少なくとも背広五着が消費されているのに、右寸法帳にはその記載が漏れていたので、背広の売上金額を売上着数で除した平均単価に五を乗じて得た金額をもつて自家消費分として売上金額に加算した。また、確定申告にかかる必要経費の金額には、同表注記載のごとき所得税法上必要経費と認められない家事関連費、公租公課、所得の処分としての支出(以下、これらの費目を総合して家事費等という。)が含まれていたので、原告の申立に基づいて算定した家事費等を確定申告記載の金額から控除して必要経費を算定した。

かくて算出された事業所得九五万七九四五円から自動車の買換えによる譲渡所得の損失金額五万四五九四円を控除した九〇万三三五一円が、原告の昭和三八年分の総所得金額であるから、右金額の範囲内である五一万八、三二五円を総所得金額と認定してなされた本件更正処分は、正当であるといわざるをえない。もつとも、本訴において本件更正処分が正当であるとして主張する右の理由と原処分のそれとは異なるとはいえ、かかる理由の差替えの許されることは、つとに判例の認めるところである(最高裁判所昭和四二年九月一二日第三小法廷判決、訟務月報一三巻一一号一四一八頁、同三六年一二月一日第二小法廷判決、訟務月報一四巻二号一九一頁参照)。

第四証拠関係<省略>

理由

一  原告主張の一の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、被告の実施した税務調査の適否について判断する。

原告の申告にかかる昭和三八年分の総所得金額が昭和三七年分の五四・八パーセントにすぎないことは、原告の明らかに争わないところである。そして、証人高崎久男の証言によつて成立の認められる乙第一号証の一、二、同証言および原告本人尋問(但し第一回)の結果ならびに本件弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実が認められる。すなわち、被告の所部職員で所得調査事務を担当していた高崎久男は、原告の昭和三八、三九、四〇年分にかかる所得その他の課税要件を調査するにあたり、さきに実施した原告の昭和三七年分所得税に関する調査の記録があつたところから、原告に対する直接調査に先立ち、丸孝羅沙店ほか五商店の仕入先につき取引額を、また、東京信用金庫高田馬場支店ほか二、三の金融機関(そのうちには、原告と取引関係のない太陽銀行中野支店が含まれれている。)について、貸付金元帳から借入、返済(利息の支払を含む。)等の状況を調査したこと、次いで、昭和四一年一月二四、二五日、同年二月四、七、二一日の五回にわたり、原告の店舗に臨み、初日は事前の通知がなかつたこともあつて原告不在で調査ができなかつたが、その他の日は午前中から夕刻に至るまで調査を行ない、これに対し、原告は、寸法帳のほか、仕入先の納品書、請求書や支出経費に関する領収書、出金伝票等の原始資料、たな卸の内訳を記載したメモ、売上および経費を月別に集計した計算書等保存にかかる資料全部を提示し、職員の求めに応じて所要の説明をするなど終始協力をおしまなかつたこと、そして、右の反面調査の結果と原始資料等に基づく直接調査の結果との間にさしたる不突合はなかつたこと、しかるに、被告は、従業員等から見て原告の同年分の売上、仕入が過少であると判断して、各種商品一着の仕立に要する平均日数と原告方の作業従事員数および作業能力を基礎に、別表第三記載のようないわゆる能力換算方式によつて本昭和三八年度については四〇一万一、五二四円なる売上額を推計し、これに対応すべき仕入額を同業者の平均製造原価率によつて算定し、その他の一般経費についても、家事関連費と認められるものは、原告方の家族構成や事業内容等に照らして適宜判断した事業専用割合を認定額に乗じて必要経費を算出し、本件更正処分に及んだこと、を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、以上認定の事実関係の下においては、原告主張のごとく、税務調査権の行使は確定申告書の記載の適正について合理的疑いの存する場合に限り許されるのが建前であるとしても、被告が原告の昭和三八年分所得税確定申告書の記載の適正について疑問をいだき、原告を調査対象に選定したこと自体に違法があるとはいえない。

また、調査深度の問題にしても、被告の実施した調査は、かなり徹底したものであつたとはいえ、任意調査の限度を超えた違法な調査であるとはいい難く、しかも、現行法上、税務調査に必ず事前の通知や本人の承諾を必要とするとか、いわゆる反面調査が納税者に対する直接調査を実施した後で、その目的を達することのできなかつた場合において、その限度内で補充的にのみ許されるものと解すべき理由はないし、さらに、原告主張のごとく、仮りに右の反面調査の後に原告が金融機関から融資を拒否された事実があつたとしても、その原因のすべてが右の反面調査にあつたものと認めるに足る証拠はなく、他に原告の従前からの信用度や金融機関の税務調査に対する無理解等も当該原因となりうることを考慮すれば、融資拒否の事実のみからただちに調査の行過ぎを推断することも、到底、許されないものというべきである。

それ故、被告の実施した税務調査には、たとえその一部に非難すべき行過ぎの点があつたとしても、本件更正処分自体を違法ならしめるほどの瑕疵は、なかつたものといわなければならない。

三  しかし、租税法律主義のもとにおいては、課税標準等の認定は、調査実額によるのが本則であり、推計に基づく課税処分が許されるのは、納税者が信頼できる帳簿その他の資料を備え付けておらず、課税庁の調査に対して資料の提供を拒むなど非協力的な態度をとる等のため、課税庁において直接所得の実額を把握しえない場合に限られるものであつて、右の要件を満たさないのに推計を基礎としてなされた課税処分は、その結果が実額と符合するかどうか等内容の適否を論究するまでもなく、それ自体違法な処分として取消しを免れないものというべきである。被告援用にかかる最高裁判所の判決は、いずれも、課税処分の取消訴訟において原処分または審査裁決の際には考慮されなかつた事実を原処分を維持する理由として新たに主張しうることを認めたいわゆる処分理由の差替えに関するものであつて、課税処分の成立要件を欠く場合に関するものではないから、前叙の判断は右判決と牴触するものではない。

いま、本件についてこれをみるのに、さきに認定したように、原告は、正規の帳簿は備え付けていなかつたとはいえ、売上高を証すべき寸法帳を、また、仕入高を証すべき納品書、請求書、領収書等の原始記録を保存しており、しかも、右の寸法帳には、顧客名と注文を受けた品名、寸法、先地ものの場合にはその旨および販売価額が記録されていて、これを集計すれば、上衣、ズボン、オーバー類等、商品の種別ごとに原告の売上着数、売上金額を算出することができることは、被告の認めて争わないところであり、右の仕入伝票等の原始記録についても、その記載を信頼しえないような特段の事情はなく、また、原告は、調査に対して終始協力的であつたし、反面調査の結果も、直接調査のそれに比べてさしたる差異はなかつたというのであるから、被告がこれらの資料を無視して、さきに判示したようないわゆる能力換算方式なる推計方法により原告の総売上額を認定し、これを基礎として算定した原告の課税総所得金額が申告額を上回ることを根拠として更正権を行使した点において、本件更正処分は違法であつて、その取消しを免れないものといわざるをえない。

ただ、原告は、本件更正処分全部の取消を求めている。しかし、本件のごとき増額更正処分は、課税標準またはこれに基づく税額を全体として確認する処分であつて、更正にかかる税額等の脱漏部分を追加確認する処分でないとはいえ、更正に伴う法律効果の点からいうと、申告による税額等の確定の効力を全面的に失なわせて新規に納税義務の範囲を確定する効力を生ぜしめるものではなく、増差額に関する部分についてのみ右のような効力が生ずるものであるから、本件更正処分は、原告の申告にかかる課税総所得金額および税額をこえる限度においてこれを取り消せば足り、その余の部分については、原告にその取消しを求める法律上の利益がないものというべきである。

四  よつて、原告の本訴請求は、本件更正処分のうち総所得金額四四万五、九九三円、所得税額一万二、〇〇〇円をこえる部分の取消しを求める限度において、理由があるのでこれを認容し、その余の部分については、不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 横山長 南新吾)

(別表省略)

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